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 長崎〜なにわコラリアーズ「祈り」の演奏会

20−02 2020.10.12

「なにわコラリアーズ」では、練習後の飲み会がほぼ「飲み会議」(もちろんコロナ前の話)になるのですが、長崎の浦上天主堂で「おらしょ」だけを集めた演奏会をしたい、という話題は随分以前から出ていたものでした。実際に教会の中で歌う経験を得た者がおり、その話を聞くたびに、「じゃあ、なにコラで行こう」という話をしていました。私も大学生のときに1か月に渡るヨーロッパ演奏旅行で、各国各所での教会コンサートを経験していますので、そこには「コンサートホール」では得られない体験があるということは分かっておりました。「なにコラ」としても中原中也の詩による曲を集めて、山口の中原中也記念館の近くで演奏したり、北陸を題材にした楽曲を冬の金沢で演奏したこともありました。演奏者としてどんな曲を演奏するか、というだけでなく「どんな場所で」「どんなシチュエーションで」演奏をするべきか(したいのか)ということも大事な選択だな、と思っていたのです。 念願適っての長崎での演奏会については、私が地元のマスコミ向けに書いた演奏会の企画書の一部を紹介いたします。

なにわコラリアーズ長崎演奏会 世界文化遺産登録記念〜「祈り」

■日時:2020年1月13日(月祝)13:30開演
■場所:カトリック浦上教会(浦上天主堂)
■曲目:
演奏曲目
1st:宗教曲ステージ
2st:男声合唱組曲「御誦」 (大島ミチル 作曲)
3st:男声合唱のためのおらしょ カクレキリシタン3つの歌(千原英喜 作曲)
 (演奏)
 指揮:伊東恵司 ピアノ:水戸見弥子 アルト:富永宏美 打楽器:樽井美咲、高田汐莉
 レクチャートーク:千原英喜(作曲家)
■後援:長崎県合唱連盟

■企画理由
今回の企画は「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界文化遺産に登録されたことを記念して、長崎の教会の中で潜伏キリシタン文化の象徴とも言える「オラショ」(…禁教された隠れキリシタンが、キリスト教の教義内容等を一種の呪文のように口伝で伝承してきたもの…)や、それを素材にした新しい合唱作品を演奏するというものです。
日本は、島国でありながらも単に保守的で排他的な社会を築いて来たのではなく、歴史上多様な外国からの影響を受けながらそれに上手く融合させて文化形成してきた側面がありますが、鎖国時代にキリスト教を受け入れ、その教義の中身であるグレゴリオ聖歌を地域の生活習慣の中に混在させ伝承した「オラショ」の持つ意味は非常に大きいと言えます。そのバックグラウンドとして中世スペイン(論理的に整理されたバッハ以前の中世西洋音楽)の教会音楽と日本的情緒の親和性等についても興味深いものがありますが、これらのテーマはこれまでどちらかというと「学者の研究対象」でもありました。我々は、それを豊かなクオリティを持った演奏会の中で「世界が共通して抱える悲しみと、それに対するグローバルな意味での祈り」に満ちた音楽として表現してみたいと思ったのです。

「御踊」の作曲家大島ミチル氏は現在NHKのドラマをはじめとして多方面で活躍中の作曲家ですが、長崎出身でもあり、若き日に「オラショ」の素材を使った男声合唱作品を書いておられます。まずそれを演奏し、島国である日本の歴史的転換点の一つとも言えるキリスト教の伝播と弾圧を音楽史、文化史的側面から辿り、思いを馳せるとともに、日本の音素材と西洋音楽との融合を試行する作曲家千原英喜氏の「おらしょ」を連続演奏することにより、新しい時代の文化融合や民族・宗派を超えた「平和への祈り」を発信してみたいと思っています。
同一素材を使いながらもあまりにも異なる2曲を並べることで、合唱の「ジャンルとしてのの可能性の豊かさ」を示すことにもなるでしょう。 また作曲家の千原英喜氏には今回の演奏旅行に同行してもらい、演奏に先立ってレクチャートークもしていただきます。つまり、演奏会の中身を立体的に設計する予定です。
奇しくも2020年1月は、オリンピックイヤーの幕開けとも言える時期でもあります。多様な文化の融合や、日本を発信元としたグローバリズムについて思いを馳せる途端にもなり得ると思います。大半がキリスト教徒でなく、無宗教と言われてきた日本人ですが、一神教の原理主義的な対立が著しい最近の世界的趨勢の中では、むしろ寛容で平穏な宗教心を持っているという評価がなされることが多いと聞きます。
そのような意味でも、我々が今、象徴的な建築物でもある「浦上天主堂」で「オラショ」を中心とし宗教曲の演奏会を企画するということは、宗教や文化や歴史を超越し、聴衆と一体となった「祈り」の気持ちから未来展望出来るものがあるということを示すことでもあると考えています。

■追記 前日には地元の高校生を中心として合唱講習会(講師:伊東恵司)も企画しております。

気持ちを集中させるために前日から長崎入りをし、一人で散策しておりました。長崎には全国大会を含めて何度か足を運んでいたはずなのですが、やはり気持ちが「おらしょ」の演奏に傾いていましたので、何だか新しい街の姿を見ているような気がしました。当日朝も含めて散策した長崎の街は、カトリックの建築物、教会の鐘の音、原爆の被害跡、平和のモニュメント、資料を読み手を合わせる観光客…、元気に遊ぶ子供たち…、様々なものが混然一体となっており「祈りに満ちた」街だと思いました。長崎県合唱連盟の協力もあり、浦上天主堂での演奏会は大変多くの拍手をいただく納得のいく演奏になりました。千原先生に演奏に立ち会っていただいたことで、私たちのモチベーションも高まり、客席の雰囲気も引き締まりました。2名の作曲家の渾身の名曲を再認識するとともに、そこに至るまでに脈々とつながれてきた音楽の歴史や祈りの歴史、人の思いや未来までをも感じることが出来、私としても生涯の中で忘れられない演奏の一つとなったと思います。

  

また、驚くような奇跡の瞬間も体験出来ました。当日はやや曇り空だったのですが、千原先生の「おらしょ」の演奏中(第二楽章のラスト、アベベルムコルプスの演奏開始時)には光が差し込んで来て、マリア像とキリスト像と教会内をステンドグラスの色が包み込みました。(歌い手から見ると私がステンドグラスの光の中にいたと言うことです。私から見ると歌い手が変幻する光に包まれており、ステンドグラスというものの効果をこんなに感じたことはありませんでした。)これは、教会でしか味わえない神秘的かつ得難い体験でした。演奏会場でのどんな演出よりも素晴らしく、やはり「会場を選んだことでしか味わい得ない」音楽体験だったと言えます。
我々の演奏が、大いなる神秘に見守られているように感じ、音楽とはまさに、聴衆を含めたその場の空気が作るものであることも実感できました。
素晴らしい時間となりましたことに感謝しております。

    

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