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 大阪ヴォーカルアンサンブルコンテスト

07−01 2007.2.8

1月末の日曜日に大阪府合唱連盟主催のヴォーカルアンサンブルコンテストの審査員をしてきました。 場所は懐かしい箕面メイプルホール。何が懐かしいかというと、私が社会人になってから「淀川混声 合唱団」で最初に指揮したホールでもあるからです。3年くらいそこで演奏会を開いていたように思 います。もう17年くらい前のことになるでしょうか?すっかり忘れてしまっておりましたが、こん な形で再訪することになろうとは…。

さて、アンコンというとよく三重で審査をさせてもらっていましたし、昨年は松江で「プラバ室内合 唱コンクール」の審査をし、そのレベルの高さが強烈な印象として残っております。この日は改めて 二つのことを感じました。
一つはいつものことながら審査って難しいっていうことです。特に一日がかりの審査員は結構大変な 肉体労働でもあります。昨年の秋に九州支部大会の審査をさせてもらって「こんなシビアな場面で審 査するくらいなら、練習や講習や演奏してたほうがよっぽど音楽的で良い」と思ったりしましたが、 コンクール、コンテストの審査は精神的にきついものですねえ。特に課題曲のない状態で順位を付け ないといけないというのは私には相当のプレッシャーです。もともと客観的な尺度というものはない わけですから、何を聞いて(評価して)何に目をつぶるか…、ということを自分の中で決めていかな ければなかなか数値化など出来ません。そもそも最初に聞いた団体と一番最後の団体の比較を正確に 出来ていたかというと「なかなか難しいものだ」と言わざるを得ませんし、「難易度の高いものに挑 戦してやや傷があるもの」と「無難なものをまずまず纏めるもの」とどちらの姿勢を評価するのかと いう問題もあります。
誰が審査をしても、いかに審査方針を立てたとしてもこのあたりの問題を完全に解決する方法はない わけですから、結局は出演するほうも審査するほうも一生懸命やるものの、ある程度結果に対する割 り切りは必要なのではないかなあ、と思ったりしております。

もう一つ感じたのは、今回の大阪のアンコンではあまりにもピアノ伴奏曲が多かった点です。私はア カペラ(ましてや純正調?)に固執しすぎる人間ではありませんし、良い音楽や表情が見て取れる場 面はいくつもありましたが、今回の場合「少人数アンサンブルならではの豊かさ」を感じさせる団体 はほとんどありませんでした。そもそも今回のホールで、しかもこの人数制限でピアノを付けた合唱 曲の演奏というものは効果的でなかったと思います。また、ひょっとして「アカペラは難しい」とい う思い込みとか、アカペラ合唱をすることに躊躇がある団も多いのではないかと疑問に思いました。 (単純に日本語のアカペラ曲が少ないという理由もあろうかと思いますが)
ピアノと言っても、松下耕やオルバーンの作品は完全に合唱と違う動きをするものも多く、声とのコ ラボレーションが考慮されていますが、今回の選曲の主流はピアノ伴奏が根音や声部のほとんどを弾 いていたり、オーケストラと同じ役割で合唱に付随しているものが多かったです。「ピアノに負けず ともかく大きな立派な声を」というのは、昔、多目的公民館のようなところで合唱の発表会がされた 時代にはやむを得ない方向性だったのかもしれませんが、現在は響きの良いホールがたくさん出来て いて、大人数の大合唱だけではなく、「声同士の重なり合いの美しさを体感出来る」アカペラの響き を楽しむことが可能です。そして、そこで効果的な演奏をしていくためにも、このようなアンサンブ ルコンテストが開催され「耳を使い、役割を感じあう」アンサンブルの面白さや原点を理解すること に意義があると思うのです。
私自身も徹底的にアカペラと格闘することによって少しずつ合唱のメカニズムを理解してこれました し、選曲の幅も音楽の楽しみも広がりました。多くの人に「声の持つ美しさを感じること」や「耳を 使ってお互い息を合わせるため」のゆとりや駆け引きを感じてもらいたいものです。

アンサンブルとは人間社会と同じだと思うのです。「一人一人がしっかりとしなくてはならない」 「けれども一人でがんばっても仕方がない」…「人に頼りすぎず自分の歌を歌わないといけない」 「けれどもお互いの声を聞き役割を考え特徴を発揮しあって声を合わせないといけない」…この 駆け引きはまさしく我々が生きていることそのものの構造と同じなのではないでしょうか?
アンサンブルコンテストの意義は、こういった「合唱の原点」と「私たちが生きて社会に暮らし ていること」の関係を理解して納得するところにあると思うのです。
今回は講評の場面がなかったので、これをささやかな講評ということにしておきます。

P.s 一人で駅に向かうときに、あろうことか道に迷いかけました。

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