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 2010年末学生指導者合宿 〜「原爆小景」について

10−14 2011.1.11

原爆小景 昨年の年末の「学生指導者合宿」終了時に日下部吉彦先生から私に出た課題 は次年度のテーマを「シアターピース」にすることでした。その少し前に 「合唱団:葡萄の樹」がモデルになってオペラ演出家の岩田達宗先生に 「モーツァルトのレクイエム」を使ったシアターピース講習をしていただいた 直後でしたので、そこまでのイメージはあったですが、そのテキストを 「原爆小景」にしたいと言われたことにはちょっと面食らってしまいました。 戦争を直接的なテーマにした曲は、戦後生まれ世代としてはどうしても躊躇 する気持ちを持ってしまうものですが、大勢を対象にした講習会で原爆小景 を扱うことは私には精神的にも荷が重いものでもありました。作品にどう取 り組んで良いのかという迷いと、安易に扱ってしまう(ように見える)こと になる可能性への躊躇であったと思います。周囲も慎重論が多かったのです が、取り上げるに至ったのは、講師である岩田先生への信頼と、最も扱いに くい題材を用いることほど「楽曲分析の方策としてのシアターピースの本質 論」が浮かび易い可能性があるということでもありました。また、私の上の 世代の指導者にしてもこの種のテーマはどちらかというと避けて通ってきた 傾向があったと思うのですが、我々世代が取り上げないと、永久に葬られて しまう可能性があることや、現在の20歳世代が向き合うには、何かきっか けを与えることも必要なのではないかと考えたこともあります。私自身が今 年広島で開催された「子供合唱フェスティバル」の講師を務めたり、合唱や 音楽の社会的側面について考えることが増えていることも影響しているかも しれません。
それにしても難曲なので、夏に一度大学生を集めたプレ講習会を行い、様子 を見ることまでしたのですが、年末講習会もモデル合唱団を1日前から集めて (暗譜に至るまで)指導するというハードなものとなりました。加えて総勢 250人を超えた合宿をプログラミングするのはなかなか骨の要ることで、 3日間でぐったり疲れてしまいました。しかし、シアターピースは動きあり きではなくて、楽曲分析の一つの方法論である、という岩田先生の一貫した メッセージは学生指導者合宿のテーマとしてはとても相応しいものになった と思います。楽曲の段落分け、書法と歌詞や言葉の関係性を体得していくた めに実際に動いて(合唱団として共通イメージを持つ)みるという方法は、 どんな曲にあたっていくにも有効な方法でしょうし、楽譜としっかり向き合 うということを指揮者に喚起させてくれもしました。難曲にも関わらず学生 たちも真剣に頑張って練習してくれましたし(モデル合唱団は暗譜しました し)、たくさんの実りを得た合宿となりました。

せっかく取り上げた「原爆小景」ですが、今回はあくまでも「水ヲクダサイ」 をシアターピース講習会のテキストとして扱っただけでもありました。今年 の夏から少しずつ取り組んできた曲でもありますので、このまま閉じてしまう のではなく、内容を少しずつ変容させながら展開していくことが出来ないかと 考えています。実はもう一度このテキストと向き合い、来年の夏に再び多くの 人の前で演奏をすることを考えています。一度は大阪いずみホールの「グロー バルピースコンサート(8月9日)」での演奏、もう一つはその後、広島で演 奏することです。広島では実際に原爆ドームを見学し、合唱を通した学びや理 解を経験しながら、合唱音楽がある種の社会的なミッションを持つ可能性があ るということについて実感を伴った演奏会が出来ないかと思って検討している ところです。これは広島方面の方々のご協力とご理解を得ないと難しい演奏会 ですが、多くの合唱団がある種の閉じた世界でコンクールの練習に明け暮れる その時期、合唱の本質やミッションということを考える機会としても、こうい った取り組みを仕掛けていくことが必要なのではないかと考えているのです。 8月11日にフレンドシップコンサートという形で実現すべく動いていますが、 広島方面の方にはご理解、ご協力をお願いしたいところです。

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