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 The Premiere〜真夏のオール新作初演コンサートレポート

09−7 2009.8.26

The Premiere この夏、関西の合唱シーンに画期的な演奏会を開催することが出来ました。
カワイ出版の協力と支援を得て、有志のジョイントスタイルで開催した「The Premier〜真夏のオール新作初演コンサート」(8月2日(日)大阪いずみホール) です。北川昇、鷹羽弘晃、松波千映子、松本望という新進気鋭の四人の若手作曲家 に新曲を委嘱し、それを4つの合唱団〜(ヴォーカルアンサンブル<EST>(三重) 、クールシェンヌ(奈良)、PLOVER Pure Blueberry(島根)、なにわコラリアーズ (大阪)〜が演奏するという形態を取ったものでした。

…雨男の私よりも強力な晴れ男がおられたのか、天候が心配された演奏会は、 お蔭様で満員の状態で開演することが出来ました。この企画のもう一つの目 玉は、ロビーでの楽譜の即売ですので、パンフの歌詞だけを頼りに新曲の中 身を想像する人がいる一方で、即売された楽譜にいち早く目を通す人がいる など、ある意味新曲誕生に様々な形で聴衆が関わり参加しているようなスタ イルでの演奏会となりました。

ステージ上では作曲家同士、合唱団同士だけでなく、作曲家と合唱団、合 唱団と観客等、様々な組み合わせでの対話が展開されたように思います。 順位だけが一人歩きしがちなコンペティションに対して、曲のタイプや演奏 の方向性や合唱団の個性等が組み合わさったりぶつかりあったりしながら、 その場でしか味わえない形で音楽会が進行していくのが心地良かったです。 ステージはまさに曲が「産み出されている」瞬間ですから、客席の反応を 含めてホール中に新しい音楽の息吹が感じられ、それをホール中で祝福して いるかのような夢のような時間が連続していきました。

…新しい合唱曲が生み出されれるためには、決して作曲家のインスピ レーションだけではなく、その曲が歌い手によって歌われることや、 その魂が観客に伝わることが大切ですし、書かれたものや歌われたもの が市販され、さらに多くの合唱団に歌われるものとして広がっていくこ とが大切だと思います。
その点、「若手にチャンスを与える」「個性を発揮しつつ複数の合唱団 が真剣に演奏」そして、「出版されて他の合唱団にも広がっていく」と いう、「連鎖や広がり」を意識した点にこの企画の意義があるのだと思 っています。

さて、実行委員長としてはふがいのない存在でしたが、たくさんのご厚情と 多くの人の努力が結集し、演奏会そのものについては、私自身記憶のないく らい、たくさんの好意的な反応を得ました。もちろん手作りコンサートゆえ の反省点は多々ありますが、何より成功の最大の要因は曲がどれも、若手作 曲家の勢いを感じさせるわくわくするような名曲ばかりであったということ です。フレッシュさだけでなく、すでに十分な個性が発揮され、熟練の手法 と計算され尽くした構成をもった名曲ばかりでした。また、そのどれもが客 席からも思わず「歌いたくなる瞬間」を持っていたのではないかと思います。 作曲家が「歌い手のそばにいる経験値を有していたことも」その理由かもし れません。以下、新曲演奏会を主催した立場から、それぞれの曲紹介をさせ てもらいます。

「箱舟の教室」(小林香作詩、松波千映子作曲)
クール・シェンヌの素晴らしくクオリティの高い演奏が、この演奏会全体 のオープニングを飾ってくれました。松波さんは「リーダーシャッツ」の 中でも、とってもおしゃれでセンス溢れるアレンジをしてくださっています。 小林香さんの作詩によるこの作品は、教室を舞台にしたお芝居のような語り 口と軽快なリズムにも彩られた躍動感溢れるフレッシュな作品に仕上がって います。ぜひとも若い人たちに生き生き楽しく取り組んで欲しいです。

立原道造の詩による四つの心象」(立原道造作詩、鷹羽弘晃作曲)
表面的な情緒ではなく、立原道造の言葉の奥に迫った芸術性の高い作品です。 ゆっくりした足取りで詩人の世界に迷い込み、時間が蘇ったり遠ざかったり、 ふと立ち消えていく様子が繊細な構成の中に描かれます。中学生を多く含む プラバピュアブルーベリーで私が演奏させていただきましたが、まっすぐな 声でこの年代特有の汚れのなさや恐ろしさのようなものを歌ってくれました。 大人世代が歌うとまた全く別の表情や表現が出来そうですよ!

「かなうた第1集」(みなづきみのり作詩、北川昇作曲)
個人的には私との繋がりの深い作詞家、作曲家ですので、敢えてESTさん に演奏してもらうことになりました。聴くと誰でも歌いたくなる合唱界の新 メロディーメーカー北川昇さんの魔法で、日常のやさしい言葉が「ひらがな」 の柔らかい感覚を残したまま美しいハーモニーになって歌われました。客席 も一緒に歌ったような気分になる温かい演奏でした。この「かなうたシリーズ」 が合唱界の新シリーズとして、多くの人に歌われていくことを想像しています!

「天使のいる構図」(谷川俊太郎作詩、松本望作曲)
「なにわコラリアーズ」で魂と気迫だけは持って演奏させてもらいました。 テキストは谷川俊太郎の「クレーの天使」です。(個人的なことで恐縮ですが、 「クレーの天使」は私の部屋にも飾られホームページの扉にもしている大好き な絵。)松本さんの手にかかると、組み合わさりコラージュにもみえたテキス トが組曲として生命を宿し、膨大な大きな輪に繋がっていました。生きている ことの寂しさと喜び、優しい励ましと微笑みに満ちた落涙必死の名曲誕生です! 男声合唱団は競ってこの曲を歌って欲しいなあと思います!!

「アニソン・オールディーズ」(編曲信長貴富)
言うまでもありません。我らが信長さんの楽しいアレンジ。指示されているこ とも指示されてないことも?、楽しく盛り込んで演奏出来ると思います。演奏 会では、スペシャルバージョンということで、楽しい寸劇が差し込まれて場内 の笑いを誘ったり、合唱団が個性を出しながら「ゲゲゲ入場」したりしました。 最後には信長先生の棒で合唱団全体で歌われたアトム。あらためて名曲であった なあ…と唸ります。楽しい演出を考えながら演奏されてはどうでしょうか?

2009.8.7 パナムジカメールマガジンに掲載
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