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 バンクーバー室内合唱団〜京都公演〜報告

09−10 2009.11.15

バンクーバー室内パンフ 錦秋の京都にカナダが世界に誇る「バンクーバー室内合唱団」がやってきました。久し ぶりのアジアツアーの一環ですが、パナムジカ主催による京都公演は長岡京市民会館が超 満員になるという盛況ぶりでした。
京都公演は「バッハ」に始まり、「ブラームス、ドビュッシー」…、得意の「シェーファ ーやチャットマン」に団員でもあるLarry NickelのKyrieも混ざり、間宮の知覧節や指揮 者Jon Washburnアレンジによる幻想的な「さくら」に至るまで、びっくりするほどバラエ ティーに富んでいました。(そういえば楽しいフォスターも入っていた!)そして、恵ま れた体躯を生かした柔らかい歌唱は、ともすれば「素晴らしい合唱=コンクール的強烈な 超絶技巧?」という図式を考えがちな我々のイメージを大きく超える「音楽そのものの豊 かさやゆとり」を感じさせるものでした。
プログラムは後半になればなるほど持ち味が発揮され、客席の隅々までを魅了していった ように思います。まさに国境を越えた一体感が醸成していくのを目の当たりにすることが出 来ました。

バンクーバーポスター 個人的なことですが、バンクーバーには04年の夏の「バンクーバーミュージックフェス ティバル」に「なにわコラリアーズ」で招待参加させてもらった経験があります。海に 近いバンクーバーの気持ちの良い夏の宵、地元合唱団とも友情を結び、コンサートでは 温かいたくさんの拍手を浴びたことを思い出します。その時もお世話になったのですが、 バンクーバ室内合唱団演奏旅行責任者のコピソン珠子さんのパンフレットでの言葉が印 象深いです。

「音楽を絆として、また尊い人間関係が架け橋となり実行される文化交流はそれ特殊 の世界を創り上げます。(中略)これは皆さんと長期にわたり共に努力した賜物です。 私達の目的は他の人々と音楽、文化を分かち合うことにあります。そしてそれにより お互いの生活を豊かにすることです。何故ならば文化は人間の心を表現するものだと 確信するからです。今回の演奏旅行は一人に中心人物により作り上げるものではなく、 カナダ、台湾、日本の合唱団の一人ひとり、またそれを鑑賞する人々、そして様々な立 場からこの交流企画をサポートして下さっている方々がこの文化交流に携わり体験する ことに意味があります。この私達の試みを実現させてくださった太平洋両岸の多くの 方々に深く御礼申し上げます。(パンフレットより抜粋)」

プロフェッショナルの合唱団から教えてもらうことが多いのは事実ですが、音楽は決 して権威的なもの、一方的なものではあり得ません。そこには必ず人と人との温かい 気持ちの交流が生まれるものです。この日の演奏会はまさにそのような雰囲気に満ち、 ホール全体が温かく豊かな空間を作り上げておりました。

よくよく考えてみると、実は今回のアジアツアーで「バンクーバー室内合唱団」が演奏 した台湾のホールは、「なにわコラリアーズ」が「台北メールクワイヤー」の招きで、 その一週間前に演奏させてもらったホールです。政治や経済の壁はいろいろとあるよ うですが、合唱では率先して国境の壁を取り払うことが出来るようです。合唱を通し て人と人とが出会い結ばれ…、迎えられたり迎えたり、歌ったり聞いたり、影響を受 けたり与えたりしているのです。そのような様子を見ていると、合唱というものがい かに「分かち合う」という言葉を体現する表現形態なのかということをつくづく感じ させられます。「バンクーバー室内合唱団」の素晴らしい演奏によって、客席とステ ージは一体となり、私たちはまさに音楽の豊かさ分かち合う関係になっていたように 思ったのでした。きっと多くの人にとってこの日の夜は「音楽のある豊かな夜(つい でにその後の少しのお酒も?)」になったことでしょう。
素晴らしい演奏会でした。

P.s
最後になりますが、今回の演奏会は楽譜とCD販売の会社であるはずの「パナムジカ」 さんの主催事業でした。音楽文化の構築や循環に対して積極的な役割を果たされたこ とに敬意を表するとともに、合唱人の一人として大きな刺激を受けたことを付記して おきます。

2009.11.14 パナムジカメールマガジンに掲載
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