アポロンの歌声〜「まだみぬあなたへ」
<北川さんの名曲次々に誕生>
09−14 2009.12.20
この12月に神戸大学混声合唱団アポロンの定期演奏会で客演指揮をする
ことになりました。
何気なく「久しぶりの神戸か…」思っていたのですが、実際に10数年ぶ
りくらいに訪れた神戸文化会館を前にするとなかなか感慨深いものがあり
ました。かつて大学に男性しかいなかった時代(戦前?)はともかくとし
て、共学になったにも関わらず大学男声合唱団がそれなりに隆盛を極めて
いた時代を支えていたのは女子大コーラス部であったという「自論」を持
っているのですが、昭和平成の境に大学生であった私も、(練習に明け暮
れているために付き合いが悪かったとはいえ…)、たまには神戸近辺に多
数あった女子大のコーラス部の演奏会に足を運んだものでした。男声合唱
団で構成される関西六連にはそれぞれ応援女子大なるものも決まっており、
合同運動会?をしたり、お互いに演奏会に行き来するような付き合いをし
ていたように思います。もちろん我々男声合唱団の演奏会には着飾った女
子大コーラス部のメンバーらがロビーや客席を賑わせていたものでした。
女子大の減少や女子大コーラス部の減少が、大学男声合唱文化の減衰への
一因になっていることは間違いなく、神戸文化会館を前にして、「昔は良
かったなあ…」と(アポロンとは直接関係のない)記憶の渦に飲まれなが
ら一人感慨に浸っていると、北川さんに肩を叩かれました。
そう、アポロンの曲は北川昇(みなづきみのりさんとのコンビネーション)
の新曲委嘱初演なのでした。(「まだみぬあなたへ」)
今年の北川さんは、8月のオール新作コンサートでESTが初演した
「かなうた第1集」をはじめ、東京六連での「あの日たち」、淀川混声
の「うたふやうにゆっくりと」、そしてこのアポロンの「まだみぬあなた
へ」と傑作揃いで、素晴らしい活躍をされています。本当に美しいハーモ
ニーと、ついつい歌いたくなるような気分にさせられる魅力的なメロディ
ーが最大の特徴でしょうか。作品スタイルは若い作曲家としては保守的で
はありますが、私自身は「今の合唱界」において必要なのはその保守性
(=分かりやすさ、歌いやすさ)そのものではないかと思ったりもするの
です。むしろ、合唱というものが「ポピュラリティを持ち得ることを特徴
とするジャンルである」ということを自覚しないと、名曲の誕生とは無関
係にどんどんジャンルそのものが先細りしていくような気がしてなりません。
そういう意味では、北川さんの曲はたくさんの人に口ずさまれながら、合
唱人口を増やしていくことに貢献することになる曲なのではないかと思う
のです。
今回の「まだみぬあなたへ」は、大学生が歌うことを想定して書かれて
いるだけに、適度な難易度で課題を持って練習しやすく、ストーリー性
があり、気持ちを込めて歌いやすい曲です。合唱人の「ツボ」をしっか
りと押さえた王道曲だと言え、曲が完成した時には、その仕上げの上手
さに、つい「唸って」しまいました。
そして、演奏会では、またアポロンが本当に気持ちの入った素晴らしい
演奏をしてくれました。
これは無責任で言うのではないのですが、指揮者は合唱団の鏡である側
面もあります。つまり合唱団の求めているモードに合わせて音楽を作って
しまうような側面もあって(もちろん引き上げたいという意識もあるので
すが)、メンバーの本気度が指揮者の本気度を引き出すことになる側面が
あるようにも思います。(…実際、指揮そのもので一生懸命伝えようとし
ても、団員が楽譜に噛り付きでは言葉以外で伝えられませんし)大学時代、
師匠を本気にさせるために、学生指揮者として精一杯のところまでをやり
きって、そこから先に導いてもらうということを目標に活動してきたこと
をふと思い出したりしましたが、アポロンの練習は実はインフルエンザの
猛威で、当初予定されていた6回の練習(合宿込み)のうち2回が飛んで
しまっているのです。しかしながら、私の練習では、最初から多くの人が
楽譜を外して練習してくれておりましたし、集中力があり、指摘していっ
たことが次々に解決されていきました。指揮者としてとても爽快感を味わ
えました。自分たち自身で音楽に向き合っていく姿、そしてそれぞれが自
分の歌を歌ってくれている様子が私をますます本気にさせてくれましたし、
もう数年間付き合っていたのかというくらいの信頼感を持ちながら「少な
い言葉数」で、指揮だけで音楽を導くことが出来たように思います。音楽
作りそのもので学生と対話していけたようにも思い、アポロンの音楽に対
する成熟度に感心したのでした。(こういった側面は信州大学にもありま
したが、これこそが大学合唱団を指揮する醍醐味なのですよね。本気にな
ってくれれば本気で応える準備が常にあるのです)
「まだみぬあなたへ」…人は悩み迷いながらも人を求め、人に頼られるこ
とにより自立していくということ、…それを理屈ではなくメロディーと音
の構成そのもので聞かせることの出来る曲。たくさんの学生団体に歌って
ほしい名曲の誕生シーンでした。
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