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「祈りの風景」〜について

第59回東西四大学合唱演奏会より

「祈りの風景」というタイトルのもとに、現代という時代に相応 しい作曲家の宗教曲(時代と地域を散らして)を5曲集めて演奏 してみることにいたしました。

「音楽が何のためにあるのか?」という問いに対しての一つの答え は「祈りのために」ということでもあるでしょう。ただし、いや、 だからこそ「祈りの形態や風景」は多様で多彩でもあるように感じ ます。ここで取り上げる宗教曲はいずれも随所に散りばめられた不 協和音や(いわゆる6度や9度等の微妙な音のぶつかり合い)によっ て新鮮な和音を生み、ロマンチシズムに溺れ過ぎない現代的な色合 いが溢れる作品にも仕上がっています。こういった様々な和声の組 み合わせは聞き手に一面的ではない複雑な印象を与えますが、考え てみれば、この「多面的な煌き」は現代という多様性を持った世界 や、人間の内面の複雑性そのものと直接的に結びついているとも言 えるのではないでしょうか。そして、その「揺らぎ」そのものが宗 教的な救済や信仰心と絶えず「呼吸」をし合っていることを物語っ ているようにも思います。

○Kyrie
【サンドストレームS.D.Sandstrom(1942スウェーデン)】
…現代スウェーデンを代表する作曲家であり、リゲティやノアゴー の影響も受けながら無伴奏合唱作品も多数残している。不協和音と トーンクラスター的技法を用いながらも、やや甘くロマンティック な曲調を感じさせるのが特徴でもある。

○Gloria
【グスタフソンK.E.Gustafsson(1942フィンランド)】
…現代フィンランドの作曲家(オルガン奏者)として多数の合唱作 品を生み出しているが、本作品は1979年の作品である「Missa A C appella」より取り上げている。それぞれの声部は平明に書かれ、 母音の長短(語感)を生かしたリズムがきらめきを生み、パートを 上手く重ね合わせることにより多彩なハーモニーを生み出している。

○Ave Regina Coelorum
【ミュキニス(V.Miskinis1954リトアニア)】
…リトアニアの合唱指導者であり作曲家。多数の児童合唱曲や宗教曲 を残している。ポピュラーソングを思わす平明なメロディーや軽いリ ズム感に温かい肌触りのある宗教曲が特徴である。

○Golgatha
【コゼット(Emil Cossetto1918-2006クロアチア)】
…作品の大部分は合唱音楽であり、テクストは民族主義的かつ英雄主 義的ものが多いとされる。作風はロマン主義的な調性的様式で、言葉 によって喚起される劇的なコントラストを特徴とする。

○Ave Maria
【リン(Lin,Ming-Chieh1982 台湾)】
本ステージでは最年少の台湾の若手作曲家である。16分音符が多用さ れるリズミカルな前半、後半部分と、情感豊かに歌われる中間部分の 対比が見事である。

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