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「天使のいる構図」に寄せて

The Premiere Vol.1 より

もうかれこれ20年も前の学生時代のことになります。1か月間に渡る ヨーロッパ演奏旅行(同志社グリークラブの学生指揮者として)の途中、 オフの一日をベルンのクレー美術館(旧)で過ごしたことがありました。 クレーのバイオグラフィーに沿った展示を順番に回りながら、迷路のよ うな美術館をどきどきしながら階下へ降りていくと、やがて戦争に伴う 苦悩や病による苦痛の時代を経て、最後の三室くらいの行き止まりの部 屋に辿りつきました。そこにはシンプルな線だけによる「天使の絵の 連作」が並べて飾ってあったのです。「クレーの日記」をも愛読してい た私は、雨の日の平日、観客もまばらな美術館で立ち尽くしながら過ご していたことを思い出します。時空を超えてクレーの絵画からつむぎだ された言葉、そしてその言葉から触発された松本望さんの素晴らしい音 楽、その循環のリレーバトンを受け継ぎ、それを塊ようなメッセージと して歌い切ることで、この曲をこの世に産み落とすことに参画出来ること を嬉しく思っています。男声合唱のみが表現し得る「不幸と幸福」があ るように思います。生きていることの「苦痛と憂い」、そこへ向けられる 「まなざしと励まし」、…それらを力いっぱい表現したいと思います。

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