「子供コーラスから学ぶコーラス」
2.振付を覚えるのではなく「身体を使う」
例えば、カール・オルフの音楽教育理念からは「音楽教育は幼児期の母国語での
歌や遊びに源流があるべき」「歌、踊り、言葉、その他の芸術が大きな一つの分
野として認知されるべき」という考えが読めますが、確かに子供たちの歌の源流
はなんらかの遊びや、しぐさと不可分であり、言語の抑揚も身体のリズムとして
感じとっているものでしょう。おそらく私たちの子供時代の遊びには(かごめか
ごめ、おしくら饅頭…)手を繋ぐ、身体をぶつけ合う、片足で跳ぶ、駆ける、担
ぎ合う…という動作(身体)と歌や囃子声が連動していたのだと思います。
しかしながら、ふと気付いてみれば今の時代、子供が声を出して駆け回っているという光
景にはめったにお目にかかれず、遊びを知らないだけではなく身体を思い通りに動
かす能力等の低下にも繋がっているように思います。他方で音楽の初等教育を見る
と、到達度の分かりやすい楽典やリコーダーにウェイトがいきがちです。
私が「みやこキッズハーモニー」を創立したのは、そのような背景に対して学校教
育の中ではなかなか取り扱われない「遊び歌」や「わらべ歌」を地域の力で伝えて
いきたいと思ったからです。歌とリズム、歌と表情・感情表現は今途絶えつつある
遊びの中からも培われてきたのだとすると、それを多様な現代的アイデアで意識的
に構築し、子どもたちの身体の中に刻み込んでいくことは大人の責務と言えるとも
思います。決まり事による振付を覚えさせるのとは異なる文脈での「言語の律動と
身体」や「動作と節回し」をどのように教え、その中から「うた・合唱」につなが
るイントロダクションを見つけるか、ということが指導者としての課題のように思
えます。
しかしながら、身体や動作と歌との関係は決して子ども合唱の導入に限った課題で
はありません。例えば同じ「おはよう」でも「ありがとう」でも「演劇的に身体で
表現してみると」人間関係や文脈や距離感に多様なバリエーションがあり、さまざ
まな音色(声色)で表現出来ることが分かります。私の団体では、いつも大人と子
どもでの合同の取り組みをしており、大人の合唱団のメンバーも子どもと一緒に手
を繋いだり、言葉を身体で表現する等の練習をすることがあります。
演劇や舞踏やリトミックという身体を使う隣接ジャンルを意識した体験は、音楽を
より豊かにし情感表現における音楽の選択の幅を広げます。…子どもに指導すべき
テーマはやはりそのまま大人の合唱表現をテーマにもなるのですね。
2017年『ハーモニー 冬号』より
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