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なにわコラリアーズIn台湾レポート

「超級好朋友系列 (五) 日本NANIWA男聲合唱團 訪台音樂會」
                (台北)2009.10.17(六) 19:30 國家音樂廳〜

♪80年代の後半に大学で映画芸術を研究していた私としては、台湾と言えば 『人生有情』という言葉で紹介された候孝賢の映画でした。その通り「なに わコラリアーズの台湾演奏旅行」では、旅程を通して出会った人たちが皆、 感情豊かで「他人を思う気持ち」に満ち溢れており、胸を打たれる演奏旅行 となったのです。海を越えて招待して下さった「台北メールクワイヤー」の 皆さんには心の底から感謝の気持ちでいっぱいです。私にとっても「合唱に 出来ること」や「合唱のもっている可能性の豊かさ」について、たくさんの ことを教えてもらった三日間となったのでした。

「台北メールクワイヤー」との出会いは2003年の『宝塚国際室内合唱コン クール』に遡ります。20周年記念大会ということで、初日にカテゴリー別 のコンクールが開催され、それぞれの上位団体が2日目に進み、拡大された 時間枠の中で他カテゴリーを含んだ選曲をしながらグランプリを決定する という本格的な国際コンクール方式での開催でした。「なにわコラリアーズ (室内アンサンブル)」は奇跡の逆転グランプリ(2位が「台北メールクワ イヤー」)を獲得したのでしたが、印象的だったのはその結果のことではな く、むしろコンクールが終わり、ホールから外へ出た時のことでした。待ち 構えていた「台北メール」のメンバーたちが「一緒に歌おう!」と言ってく れて、楽しい歌合戦が始まったのです。私たちはいくつかの男声合唱のレパ ートリーを交換したり、共有レパートリーをともに歌い、そのまま日が暮れ るまでベガホール前で友情を育んでいました。そこには、ややストイックに 演奏のことばっかり考えていた私の緊張した気持ちを一気にほぐしてくれる 笑顔があったばかりでなく、音楽の本質とは「競うもの」でなく、「分かち 合うもの」であるという基本的なことを痛烈に思い出させてくれる気持ちの 交流があったのでした。

台北メールクワイヤーは世界的優秀団体として国家からの支援を受けている こともあり、その後も世界各地のコンクールに挑戦しています。しかし、賞 を獲ることよりも世界中に友情の輪が広がっていくことを真剣にあるいは純 粋に考えており、その活動の足跡として世界中にネットワークを広げている ように思います。今回の「なにわコラリアーズ」の台湾公演は、彼らの言葉 で言うところの【「超級好朋友系列 (五) 日本NANIWA男聲合唱團 訪台音樂 會=とても仲の良い世界の友達を台湾に呼んで演奏会をしていこうシリーズ の第5弾】に該当するものでしたが、世界のあちこちで仲良くなった団体を 台湾に紹介するだけでなく、国際交流や文化交流や音楽を通した人と人との 交流を図ることが意図されており、演奏会を取り巻いてたくさんの友情が広 がっていくように設計されていました。日本の団体としては2年前の「ヴォ ーカルアンサンブルEST」に続いて2度目の招待ということにもなりますが、 国家音楽院の押さえから集客に至るまで演奏会の全ての段取りは「台北メール クワイヤー」によって進められており、空港への迎えに始まり、観光地への 案内、練習場の手配、台北の美味しい夕食案内、夜市案内、それから印象深 いお土産(なんと一人一人の名前を彫った印鑑)まで、…本当に完璧なホス ピタリティーで心から歓迎してもらいました。満員の演奏会でも上手に進行 のお膳立てをしてもらい、現地の方にたくさんの拍手をいただきました。客 席とステージの間には本当に虹の架け橋がかかったようにも思えたのでした。

さて、「なにわコラリアーズ」は、忙し過ぎる社会人が多い男声合唱団で、 海外ともなるとなかなか日程調整できないのが苦しいところですが、それ でも幸いにして今回が3度目の海外演奏旅行となります。(シンガポール での『アジア太平洋合唱シンポジウム』、『バンクーバミュージックフェ スティバル』に引き続き・・・)海外に行くたびに思うことなのですが、やは り、世界は広く音楽は奥深いです。そして、国境を作っているのは「政治 や経済」、もしくは私たちの勝手な「思い込みや囲い込み」であって、歌 や音楽はいとも簡単に国境を越え、手っ取り早く多くの人々の笑顔を作り ます。歌や合唱は国境を越えて互いの状況を理解させ、想像力を豊かにさ せ、真の友情を育みます。そして、何より「歌うことには実は大きな意味 も大きな価値もあるのだ」ということを教えてくれるように思うのです。 ホールの中で小さく完結するだけではなく、合唱を通して人と人とが出会 い結ばれ…、迎えられたり迎えたり、歌ったり聞いたり、影響を受けたり 与えたりすることが出来るのです。印鑑 そのようなことを体験すると、合唱というものがいかに「分かち合う」と いう言葉を体現する表現形態なのかということをつくづく感じさせられます。 「台北メールクワイヤー」に教えてもらったことを私たち自身が今後の活 動に生かし、さらに広げていくことが一番の恩返しになるに違いないと思 っているところです。

2010年『ハーモニー 冬号』より
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