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多田先生、ありがとうございました「なにわコラリアーズ」が、「ただたけだけコンサート」(現在vol5まで進行中)を始めたのは、ノスタルジーや蘊蓄にウェイトが行きがちだった多田作品全体に、声楽技術とオーソドックスな音楽観を持ち込みながら新鮮な音楽作りをしたかったからですが、多田先生は、「なにわコラリアーズ」の演奏をよく映画に例え、「フレーズは映画のシークエンス、細部に至るまでアングルやカット、カメラワークが感じられる…」とおっしゃっていました。多田先生は実は、若い頃映画監督を志しておられたことがあったようです。何を隠そう、私も大学時代には年に365本の映画を見ながらポストモダン芸術論を学んでいた経緯があり、共通のボキャボラリーの中で小津安二郎や溝口健二、成瀬巳喜男、山中貞雄の映画技法を音楽に結びつけながら演奏談義をさせてもらったものでした。
私が多田先生とお話できたのは、多田先生にとっての晩年ということになります。随分気に入ってくださり、頻繁に長いお電話(平均2時間)をいただきました。朝の7時ぴったりに自宅に電話が鳴ると、大抵それは多田先生でしたが(恐らく7時までは待っておられたのか…)、堰を切ったように山田耕作先生や清水修先生の話、カールベームとウィーンフィルの話、紅白歌合戦の歌手の話…(ここまでは定番)、音楽のみならず、何故かウェッジウッドからエルメスの歴史の話まで、様々なことについて教えていただきました(もちろんいくつかの話は重複するのですが…)。
少しずつ身体が悪くなられたことは、電話の時間が徐々に短くなってきたことから感じられました。最後の電話は2017年の11月下旬。演奏会のメッセージをお願いする電話をさしあげた時、声のトーンから私は密かに容態のことを案じたのですが、いつものように穏やかに「本当にありがとう、いつも良くしてもらって」とおっしゃられたことが思い出されます。一度舞台で見た美しい角度のお辞儀姿や、ご自身の死に際しても年末年始に迷惑をかけてはならないから、と隠されていたことをとっても、謙虚で筋道の通った生き方、お人柄が偲ばれます。
P.s 2018年『ハーモニー 春号』より
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