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「中勘助の詩より」 〜中勘助の残した言葉のかけらを巡って〜同志社グリークラブ第85回演奏会より詩とは映像のかけらであり、音のかけらであり、言葉のかけらであり、時間のかけらである。 ある何でもない瞬間・・・、窓越しに風景を眺め、濡れた屋根瓦に寂しげな表情を感じたとき、 白いレースのカーテンの揺れに春の風の静けさを感じたとき、テーブルの上のメロンに夏の陽射し が降り注いでいるのを発見したとき、そのよこで光る銀のスプーンに、単純な形容詞では表し得 ない感情を抱いたとき、・・・蝶の羽ばたきのようなその微かな心の震え・・、その感情の鏡に 浮かんだ小さな波紋がポエジーなのであり、その瞬間にいろんな色の感情を注ぎ込み、それを心 のまなざしで受け止め得る者が詩人なのである。
中勘助はそんな瞬間にまなざしを注いだ詩人の一人であるが、日本文学史上稀有な存在であると
いえる。
「銀の匙」は引き出しの中の珍しい形の銀の小匙の思い出から始まり、幼い日々の思い出を綴っ
たものであるが、単純なセンチメンタリズムという言葉では片付けられない独創性と比類のない
美しさを誇り、きらびやかな美しさというよりは、現実が研ぎ澄まされて幻想になったというよ
うな雰囲気を漂わせる。
どこかで見掛けた風景、どこかで感じた感情、どこかで聞いた話・・・中勘助の詩と文章からは、
幻想的な時間と風景が溢れだし、遠い遠い時間の果てのほうから感性に囁き掛ける声を感じる。
その距離感にはしかし、ロマンチックな色付けはなく、ただ、子供の頃の小さな落書きをそのま
ま残しておきたいというような気持ちが「リリシズム」としてほのかに香っているだけだなのだ。。 「絵日傘」・・・・・・・・絵日傘を持って遊ぶ子供の情景に襖越しの呼び掛け・・・ 演奏において私が最も大切にしたいのは、「優しい気持ち」・・・それに反応し得る「柔らか い感性」である。普段、慌ただしい生活の中で見逃してしまうような「風景」にまなざしを注 いだとき、眠っていた感性の蘇りと共に、世界はそっとその扉を開いてくれるはずなのである。 |