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「Kaj-Elik Gustafsson男声合唱作品集」

同志社グリークラブ第94回演奏会より

K.Gustaffssonはフィンランドの現代作曲家(オルガン奏者)とし て多数の合唱作品を生み出している。
最近になって合唱王国である北欧の合唱曲は一般合唱団のポピュラーなレパートリーと しても定着しつつあるが、日本においては少ないと思われがちな男声合唱のオリジナル レパートリーにも北欧にはまだまだ埋れた名曲が豊富にあるように感じられる。

1977年の作品「Salve Regina」のテキストはマリアをたたえる 有名な聖歌の一つである。美しい短旋律(美しく歌うのは非常に難しい)から始まり、 きらきらと輝く和音が母音の長短を生かしたフレーズとしなやかな語感の彩りとして 散りばめられている。ハーバードグリークラブが好んでよく演奏しているが、深すぎる 発声を避け、優しく温かい「響き」によって音が舞い上がっていくような雰囲気で演奏 したい曲である。

また、1979年の作品である「Missa A Cappella」より「Kyrie」「Gloria」「Sanctus」 「Agnus Dei」の4曲を取り上げた。
それぞれの声部が平明に書かれているのに、重ね合わせることによって多彩なハーモニー に生まれ変わる点は、合唱の「楽しみ」そのものを体現しているとも言える。
これらは西洋音楽の伝統的なミサのテキストを用いながらも、独自のハーモニー感覚に満ち、 随所には現代的な仕掛けが施されている。トーンクラスターの手法や音の重なり具合 は教会のオルガンで再現してみると見事な原始キリスト教的な恍惚感と充足感に包まれ、 この曲がやはり「純粋ででひたむきな気持ち…」や「祈りの心…」を源泉として作られて いることを実感せずにはいられない。にも関わらず随所に散りばめられた不協和音やいわ ゆる「9度」や微妙な音のぶつかり合いは新鮮な和音を生み、ロマンチシズムに溺れない 現代的な色合いが溢れる作品にもなっている。

協和音と不協和音の組み合わせは聞き手に一面的ではない複雑な印象を与えるが、考え てみれば、現代という多様性を持った世界(社会)や、人間の内面の複雑性そのものと直 感的に結びついているとも言えるのではないだろうか。そして、その「揺らぎ」そのも のが宗教的な救済や信仰心と絶えず「呼吸」をし合っていることを物語っているように も思うのだ。

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